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『戦争が終わらない理由』 東大教授 遠藤 乾 

この記事は、2023年7月7日(金曜日)、北海道新聞の「各自核論」に掲載されました。

『戦争が終わらない理由 ― 安全を保証する難しさ』

ウクライナ戦争の開始から約1年半。日ごと積み重なる犠牲者を前に、なぜ終わらないか、いぶかしく思う人は多い。

戦争が終結しない理由はもちろん多重だ。ここでは、戦後にウクライナの安全を保証することの難しさが、戦争継続の最大の理由になっている点に着目する。

戦争を終わらせる簡単かつ正しい方法は、侵略側のロシアが撤兵することだ。力によって他国を侵犯するのは国際法と国連憲章に反する。その大本のルールに戻ればよいだけ、なのだ。

しかし、民間軍事会社ワグネルの武装反乱を経てもなお、ロシアのプーチン大統領が侵略を中止し撤兵する気配はない。彼の中では、ウクライナはロシアと一体であるべきなのだ。

ウクライナが頑強に抵抗を続け、それを西側が支援をしているから戦争が続いていると考える人もいるだろう。
だが、ウクライナに今、「和平」を強いるのは、大義のない侵略と全領土の20%が占領されたままの状況を容認することを意味する。侵略がペイするとなれば、世界中でその誘引が高まる。それは正しいだろうか。

さらにウクライナは核を放棄した国だ。その国に核保有国が侵略するのを許せば、核不拡散にも悪影響が出る。
それでも、命は地球よりも重く、そのためなら現状固定型の停戦の方が、ナショナリズムに凝り固まって犠牲者を出し続けるよりもまし、との考えがよぎるだろうか。
既に2014年以降ずっと侵略を受け、犠牲者を出し続けているウクライナに、その考えを押し付けるは不当だ。いったん停戦しても、いずれまた機を見てロシアから攻め入られ、領土を削り取られることになり得る。

この段階で現状固定による停戦を説くのであれば、将来においてウクライナが侵略を受けないという保証の道筋を提示する義務がある。現在の犠牲者を嘆く一方で、将来再び犠牲者が出る見込みに目をつぶるのは、論理が一貫していない。
まさにこの点が戦争の終わらせ方を考える上での肝だ。非戦論者だけでなく実は誰も、ウクライナに対し将来にわたる安全を保証するすべを持たない。

確実な保証は同国の北大西洋条約機構(NATO)への加盟だろう。同条約第5条は、一加盟国への侵略を全加盟国への侵略と読み替え、軍事的に支援する義務を課す。
重い誓約ゆえ、米独をはじめ加盟国はウクライナの加盟にちゅうちょする。未加盟でも、将来における侵略に際し再び軍事支援をすると約束をしても、第5条の代わりにならない。その約束もまた、主要国の政権が代われば、履行がおぼつかなくなる。国連は機能不全のままであり、どの大国も保証をできずにいる。

そうなると、ウクライナの反転攻勢には別の意味が出てこよう。つまり14年のものであれ、22年2月のものであれ、旧国境まで押し戻すという成果そのものが、唯一の具体的な安全の保証になる。侵攻しても押し戻されるという前例をロシア側に刻印することによってのみ、自らの安全が保たれるいうわけである。

1939~40年の「冬戦争」でソ連の侵略を受けたフィンランドは粘り強く抵抗し、国土の10%を失ったものの、独立を維持した。
もう長い間、フィンランド国境にロシア軍は展開されておらず、侵略の意志は枯渇したと思われる。

ウクライナとフィンランドを同列に論じるわけにはいかないが、歴史的には一番近い事例だろう。NATOに入れないままウクライナの安全を保証するには、侵略しても無駄だとロシアに思わせるほかなく、そのためには侵略前の状況を回復する以上に効果的な手はない。

それでも、ウクライナに反撃をやめろという人は、同国の安全の保証に別の道を提示すべきである。ウクライナに同情しつつもNATO加盟並みの保護を与えられない国は、せめて原状回復までウクライナが反転攻勢する必要性を認め、支援すべきである。
プーチン氏が諦めない限り、残念ながら、ウクライナの反転攻勢、戦争継続は是とせざるを得ない。

Monologue

最後の「戦争継続は是とせざるを得ない」には、「仰せの通りです」と言わざるを得ない。
反論があれば聞いてみたいが、でも多くの人が納得できる反論は無理だろう。