< ショーアンドテル出版はあなたのお店を繁盛店に導きます! >

あなたのお店を繁盛店にする極意を公開! 書籍で学ぶ『最新・最強の処方箋』とは?

『受験制度をやめませんか』 京大人文科学研究所準教授 藤原辰史

この記事は、2023年7月7日(金曜日)、北海道新聞の「各自核論」に掲載されました。

『受験制度をやめませんか ― 重い負担、問われる意義』

イタリアに行くとイライラさせられることが多い。レストランで注文してもなかなか出てこない。お店に行っても閉まってる。どうやらお昼寝タイムらしい。バスの運転手が地元の人と楽しそうに話していて、なかなか出発しない。待たせられている乗客ものんびりと窓を眺めている。約束した時間に人がこないことも多々ある。

海の幸も山の幸にも、名画にも歴史的建造物にもめぐまれているという点ではイタリアと日本はよく似ているのに、人間性はなぜこうも違うのだろうか。あのイライラの原因はどこにあるのだろうか。

私は受験制度が大きいと考える。日本人は幼少期から受験戦争に参戦させられる。競争が激しいので、無駄のない行動が子どもに強く求められる。さらに、難題で差異をつけられる。日本以上に厳しい受験文化を持つ韓国ではそれを「キラー問題」と呼ぶ。キラー問題を解くために高価な塾に通わせる。だから、裕福な家庭の子どもたちばかりが人気の大学に入学する。だが、裕福な家庭の子どもが必ずしも才能があるとは限らない。受験の知識と学問は本質的に異なるからだ。

先日、韓国ドラマを見ていたら、学習塾に通う小学生たちが夜中にコンビニでカップラーメンとカフェインの強いドリンクを競って食べ、飲んでいるシーンがあった。ドーピングに近い。子どもたちの自死や陰湿ないじめにも受験競争は深く関わっていると思われる。

日本も状況はほとんど変わらない。私たちは受験戦争に慣れすぎていて、それが子どもたちの心身に対する害悪にもなっていることを理解できない。

他方でイタリアには、少数の大学をのぞいて受験がない。ほとんどの大学は希望通りに入学できる。だから、大学入学まで受験に勝つための訓練的勉強をする必要がない。昼休みの給食も、日本の小学校のようにカリキュラムを詰め込みすぎて、黙食し5分で食べ終わるといった非人間的なことはない。何事も時間をかけようとする。

その代わり大学の卒業が難しい。しっかり勉強して、リポートを書き、卒業論文を仕上げなければ卒業できない。だから留年が多い。留年が多いのは問題かもしれないが、そのあいだに就活をするので、日本のような学生に重い負担を強いる就職戦線がない。

大学で鍛えられた人たちが、入学後に腑抜けになる日本の学生より有能な働き手になることは想像に難くない。学生時代に学ぶべきことはもっとたくさんあるのだ。

文化の違いは昼寝にもあらわれている。「シエスタ」と呼ばれる午睡の時間をとる風習がイタリアにあることはすでに知られている。これだけ夏の
気温が上昇する日本でも、各企業は早急に導入すべきものだと思うが、いまだに学校の延長で昼休みが短い。

なので、やめませんか。日本の過剰な受験制度。あまりにも非人間的ではないでしょうか。そんなことを言うとこんな批判がくるだろう。世界に誇る日本の国内総生産(GDP)は日本人の勤勉さが生み出したものだ。受験の競争が有能な人材を生み出してきたのだから、いまさらイタリアになんかなれない―。

しかし、この発言は実は間違いである。2022年の統計で、1人当たりのGDPはイタリアが29位で日本は30位。すでにシエスタの国に勤勉の国が負けているのである。日本が目指している経済成長が、日本が敷いている教育制度に見合っていないのはおかしいではないか。子どものじめや自死がこんんなに問題になること自体おかしい。人間に害悪をもたらす制度は早急に再考すべきだ。

塾が廃業になってもいいのか、という声も聞こえそうだ。しかし、世界最高レベルの知性をもつ日本の塾講師たちであれば、受験競争とも学校制度とも異なった面白い学問を教える場所を創出できるに違いない。

編集後記

この内容に、いたく感銘を受けました。
「大学の門戸は広げ、卒業を厳しくする」。
いつの日か、実現することを強く願います。
それが多くの子どもたちを幸せにし、日本の発展にも貢献するでしょう。