「売場リフォーム」はハードの変更の前にソフトの改革から
以前に代表の武永昭光が月刊「商業界」に投稿した『[売場リフォーム]ビフォア・アフター』を紹介します。
一般的に改装とは、床、壁、天井、什器、照明などハードを新しいものに変えることです。
しかし、ハードを変えて、デザインをお洒落にして、きれいにするだけでは、改装後の業績の向上は望めません。
改装を成功させるには、「ハードの変更」だけではなく、「ソフトの改革」も必要です。
ソフトの改革も伴う改装は、陳腐化してきたのでハードを変えるという発想ではなく、お客様が変わったので、それに伴い商品を変えなければならないと考えます。
そして商品の分類や分類の大きさが変わると、什器のレイアウトや什器のサイズ、機能もそれに合わせて変えるという考えです。
まずソフトの変更があり、それに伴ってハードの変更が行われるというものです。
ソフトとはマーケティング、マーチャンダイジング(MD)、VMD、販売サービス等のことで、ソフトの改革とはマーケティング、MD、VMD、販売サービスを改善して進化させるということです。
シーズン商品の正しい改装のポイント
シーズン商品を扱う売場を改装する際の重要なことに、シーズンが変わってもグルーピングがきちんと表現でき、商品を美しく陳列できる什器を用意することがあります。
シーズン商品を扱っている売場はシーズンによりアイテムが変わり、アイテムバランスも変わります。
それに伴い、商品を陳列する什器の機能(吊るし、たたみ)の変更も必要になってきます。
例えば、Tシャツが減り、ジャケットやコートが増えてくると、必要な什器が棚什器からラックに変わります。
夏に展開されるサングラスは冬には減り、あるいは無くなり、手袋、マフラー等が並びます。
サングラスもマフラーも棚やフックで陳列しますが、サングラスに必要な棚の長さと手袋に必要な棚の長さは商品の展開数量により異なります。
それからサングラスと手袋とでは陳列用什器の機能が違います。
例えば奥行35センチの棚が6メーター分必要とか、フックを掛けるバーが3メーター分とそれに掛ける奥行20センチのフックが25本必要、あるいはサングラス専用の陳列器具が30個必要など、商品により、また、商品の数量により必要な什器の機能とサイズ、数量が違ってきます。
それを踏まえた改装をしなければ、オープン後商品を並べるのに苦労することになります。
実際に、商品のグルーピングが思ったようにできずに苦労するといった場面が、改装オープン後しばしば見受けられます。
圧迫感を取り除き、トータルコーディネートを表現
ハードは棚什器をテーブルに替え、柱面の機能を一部替えただけ。テーブルに替えることで圧迫感を取り除き、トータルコーディネートを表現するために柱面角に全身ボディを設置した。立ち寄るお客が増え、客単価も上がった。
見通しを良くして、コーディネートを表現
ハードの変更は棚什器をテーブルに替え、柱面角にボディを設置したこと。
什器の高さが低くなったため見通しが良くなり、またワイシャツとネクタイのコーディネートを表現できるようになった。
改善を要した理由は、グルーピングの大きさに合った什器のレイアウトや商品陳列に必要な什器の機能をきめ細かくプランしていないからです。
売場は変わる商品構成に什器の機能やレイアウトが対応できないと崩れていきます。
例えば1年間で4度商品構成が大きく変わるなら、それに対応できる什器の機能とレイアウトがなければ、顧客本位のグルーピングや美しい陳列は実現できません。
そのために必要なプランが次の通り、12項目あります。
科学的な改装の実施12項目
数値に基づいた科学的な改装を進める際に実施しなければならないことを時系列で整理してみます。
ポイントは分類の決定、分類ごとの売り上げ、面積、什器台数の決定、分類ごと、アイテムごとに什器の機能別の長さを平場、壁面など条件に応じた換算などです。
以下の1~10はMD、11、12はVMDの範疇に入ります。
ターゲット設定の一般的な切り口は年齢と所得ですが、テイストやライフスタイルはもちろん勤務先、趣味やプライベートでの行動などまで特定して絞ります。
MD方針とは改装後の品揃えについての方針で、売り上げと利益の施策、分類や価格の見直し、スクラップ&ビルド、取引先政策等の考えを示すものです。
競合店対策とは、自店の競合店、競合売り場への対策で、調査から始めます。競合店の強み、弱みを分析し、自店のMDに活かすためのものです。
強化商品には強化するアイテム、ブランド、スタイル、デザイン、素材、機能があり、バイヤーとして来期に期待したい商品、期待できる商品のことです。
差別化商品とは競合店と差別化でき、顧客にも支持され、売り上げも期待できる商品のことです。
エイジ・グレード・テイストのバランスでは、年齢層(エイジ)、収入・価格帯(グレード)、感度・嗜好(テイスト)の何処に焦点を当てるかを定め、それぞれのバランスを決めます。
商品分類の大分類ごと、中分類ごと、小分類ごとの売り上げバランスを決めます。
分類ごとの売り上げの中身を決めた後、売上予算を実現するために必要な型数をアイテム別に明確に決めます。
アイテム別型数を決めたら、それをプライス別に振り分けます。
アイテム別関心度別型数とはアイテムごとの型数が決まった後、更に中身の型数を関心度別に振り分けます。
分類ごとに面積を決めます。在庫はアイテムごとに金額と数量を決めます。その面積にふさわしい什器台数をタイプ別、サイズ別に決めます。什器1台ごとの商品数量も決めます。カウンター数やイス数なども決めます。
デザイナーが起こした平面図に総量で入るか、グルーピングがまとまるかを当て込んでみて確認します。平面図に当て込んでみて概要がつかめたら、次は立面図、什器図への当て込みです。棚1段、パイプ1本レベルに当て込みます。
お金をかけなくても成功する改装
お金がかかると思われる改装ですが、低コストでも成功の確率が高い改装はできます。
床、壁、天井、什器、照明などのハードはできるだけ既存のものを活かし、一部の什器の色を塗り替える程度の変更に留めます。
MDの改善、VMDの改善が先にあり、それに伴い、商品のグルーピングに合った什器のレイアウト、商品の陳列に合った什器の機能に変えるのです。
まずグルーピングのかたまりを表現する什器のレイアウト、什器の機能、什器のサイズの更新は最優先します。次に新しい什器レイアウトに沿って、床の一部を変えます。
まだ予算があるようなら、変わったというイメージをつくるために、壁の色、素材等一部を変えます。
予算が限られている場合、ハードの変更はこの程度に抑えたとしても、改装後の売り上げを伸ばすことはソフトの改革を進めることで十分可能です。
ハードの変更+ソフトの改善、この両方により、改装オープン後に売り上げが上がり、オープン後数年を経てもイメージが崩れない売場が実現します。
デザイン優先、ハード優先の改装ではなく、MDやVMDの見直しなど仕事の見直しを優先した改装、数字的根拠のある科学を重視した改装、このような改装が成功をもたらします。
お知らせ
科学的な改装に欠かせないデータシート(MDプラン・VMDプラン)の詳細については、『伊勢丹に学ぶ「売れる!」店作り Kindle版』(武永昭光著)にて解説しています。
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